師走という 世界的標準カレンダーにおける年度末へ突入しても、
降誕祭だの年越しの何たらだのといった
この時期恒例だろう華やかな催事やイベントにはあまり関与出来ぬよな、
ある意味 何かと通常運転の彼らであり。
なのに、いやいやその原因と言うべきか、
何かとコトが起きやすいがため、世間様に負けないほどの繁忙期へ突入した“双方の勤め先”から、
何とかもぎ取った非番を重なるよう合わせられたのは、一足早い降誕祭の奇跡というやつかも。
待ち合わせた街路に佇むグレイのダッフルコートへ、
漆黒のボディしたシックな外車が 吸い寄せられるように近づいて、
まだ停車するより前から歩道側の窓が開き、
精緻なまでに整った美貌の君が、切なるお声を張り上げる。
『敦、こっちだ。』
『中也さんっ。』
マナー違反だがしょうがない。
少しでも長く一緒にいたいという想いのほとびなのだから。
そんなほどに落ち着きのない恰好で、
昨夜のうち、仕事帰りの途中にて落ち合って、
久し振りに逢うこと叶った、
好いたらしい愛しい人のお顔やら声やらを
せわしい視線や感応で拾って堪能したのもつかの間、
『帰ぇるぞ。』
『はいっ。//////』
駆け落ち相手を掻っ攫うかのごとく、
乗り付けた車へ引っ張り込んだ愛し子ごと、中也の自宅へ引き上げて。
誰にとの気遣いも要らぬまま、しっかと抱き合い、互いの温みを身に染ませ、
二つと居ない半身と向き合う充実に、思う存分浸った一夜は格別で。
『…あ。//////』
『おはよ。』
『お、おはようございます。//////』
含羞む子虎くんをとろけるような優しい眼差しで飽くことなく眺め、
ヌクヌクと迎えた完全非番の一日は始まったばかり。
結構温暖だった数日を蹴飛ばすように、今朝は少し寒かったので、
幹部様お手製の プリンみたいにとろっとろのフレンチトーストと、
ベーコンエッグを乗っけたカリカリトーストのダブルモーニングと
野菜たっぷりのトマトスープ、ミネストローネをいただいて。
さてどう過ごそうかとリビングへ戻り、
スマホの小さな画面じゃあ覗き込みにくいのでと
PCを立ち上げ、師走ならではなイマドキのあれこれを検索しておれば。
動画タイプのバナーからの声が漏れ聞こえて、
【そうそう、引っ掛かっちゃうんですよね。】
【つか、今時 “十回クイズ”ぅ?】
来週あたりに動画サイトで中継されるらしいバラエティの予告らしく、
やや大仰な声が五月蠅くも洩れている。
同じフレーズを10回言わせ、
その単語への引っかけになる簡単なクイズを出して言い間違いを誘うという、
単純だけれど何だか笑える、
そんなパーティーゲームが紹介されており。
「あ、そうそう。膝じゃなくて肘か。」
出された例題、ワンテンポ遅れて理解した虎の子くんだったのが可愛いなぁと。
バラエティ番組の宣伝らしいという趣旨の方は二の次に追いやる格好、
身内の呟きの方へとついつい目許を細めた赤髪の幹部様。
王様ゲームだの山手線ゲームだの、
もはや王道、若しくは時代遅れとされるよなパーティーゲームの数々は、
今でこそノリも判るようになったれど、
初めて知ったときはさすがに
中也自身もあわわと振り回されてばかりいたもので。
「流行ったのは結構古い話なんだろに、
今でも時々思い出したように取り上げられてるよな。」
やっぱ面白れェからだろなと笑って付け足せば、
賛同できぬということか、敦がむむうとちょっぴり膨れているのは、
自身はどちらかといや引っかけられる側だからなのだろう。
そんなところがあけすけな、それは幼い恋人さんへ、
視線を寄越しつつ くくくと楽しげに笑って見せれば、
「少しは慣れて来たんですけどね。」
慣れると感じるほど、引っかかり役というカモにされているらしく。
それを悟らせるほどに無防備なのも天然ゆえかと、
今度は微妙に困ったような顔で中也の口許から苦笑が洩れる。
人を貶めて嘲笑うような、いかにも性の悪い人間はいない職場だろうから、
とことんいじられて追い詰められてしまうようなことはなかろうが、
拗ねられてしまっては もはやゲームじゃあなかろ。
そろそろ宥めた方がいいかなと感じておれば、
「昨日は鏡花ちゃんに引っ掛けられましたし。」
「…っ☆」
中也でさえ目が点になったよな、そんな爆弾発言が飛び出す始末。
鏡花というのは ほんの短い期間マフィアに居た少女で、
必殺の異能を生かした暗殺担当だったため、
中也も 作戦行動ではあまり顔を合わせた覚えがないものの。
愛らしく和装の似合う風貌と儚げな雰囲気から、
自分の養い親にあたる尾崎に気に入られていて、
本拠ビルにて見かけることは多々あった。
両親を殺されてポートマフィアに拾われたという、凄惨な背景が背景だったためか、
何の表情もないお顔しか思い浮かばないし、
半年ほど前までの芥川に並ぶだろうほど、
感情も拾えずの寡黙であったという印象しかないのだが。
敦にすれば初めての後輩さんだし、
紆余曲折があった彼女の傍らに、支えるように居たせいか、
最初に懐かれたという間柄だと聞いており。
そんないとけない少女からも手玉に取られたとは、少なからず堪えたろうなと思いつつ、
「ちなみに、どんなネタだったんだ?」
「リンゴと10回言ってから、シンデレラが好きなものは?って訊かれました。」
まだまだ拙い子供の考えたそれ、
何だかいろいろと突っ込みどころの多い問題で、しかも、
「引っ掛からないよと頑張って“かぼちゃ”って答えたら、王子様だよって。」
「う…ん、間違っては無いよな。」
カボチャが“好き”かどうかは微妙で、どちらかといや 出てくる野菜は?の答えではなかろうか。
だがだが逆に問題の方も方で、
王子様というのは白雪姫でも、何だったら人魚姫でもOKな答えではなかろうか。
そういった大人げない突っ込みさえ浮かぶことなく
“あああ、やられたぁ”っと悶絶して見せた敦だったのだろうし、
そして幼い鏡花は、年上の敦を言い負かしたぞというささやかな優越感に
口許をうっすらほころばせたのに違いなく。
“…平和だな、探偵社。”
闇夜を制する漆黒の存在、ポートマフィアの管理職が、
恋人くんが取っちめられたそのネタへ こうまで毒気を抜かれてしまった辺り。
何だかんだありつつも、魔都ヨコハマは今のところは平和であるらしい。
「そうさな、じゃあ俺とやってみるか?」
「え?」
すぐ間近から掛けられたお声へ、
まずは、やだしょぼくれてたの気遣われちゃった?と
とくんと胸が跳ね上がりかけた敦であり。
にっかり笑うお兄さんへ、うううと含羞みに染まったお顔を向ける。
「それって、10回クイズのことですか?」
敦は濃灰色の、中也はバーガンディーだろう赤みの強い茶系の、
ざっくり編まれた縄編みがお揃いのバルキーセーターに、
ボトムはレギンスと綿パンをそれぞれ合わせたというラフな格好でおり。
出掛ける先に合わせて着替えるつもりで居たのだが、
それが決まる前の一遊びということか、
それにしたって…とセーターの襟元へ首をすくめるところが愛らしい。
“虎じゃあなくて仔猫みたいだなぁ。”
まさかにこの中也までが揚げ足取りをやるのかな、と
そんなところへ臆したか。
地位風格に似ずの悪戯っ子なところは、でもでも
敦としても好きだとするところ。
うううとしょげかけていたお顔をおずおず上げるところが、
“…うあ。絶対に他所でやんなよ、その顔。//////”
いやん、可愛いじゃないのと、
あっさり萌えてしまえる幹部様なのも大概ですが。(こらこら)
ともあれ、何か思いついたからこそのお誘いであるらしいと察し、
しょうがないなぁと眉を下げつつ、
「いいですよ、頑張りますvv」
お付き合いいたしますとの意を示せば、
そう来なくてはとますます笑みを濃くしてから、
「じゃあ出すぞ?」
やはり何か思いつきがあってのお誘いだったようで。
それでも一応はということか、
考え込むように視線を左右に泳がせ、
斜め上を見やりつつ、わざとらしくも“う〜ん”なんて唸って見せてから。
よぉ〜しとの自信満々、
それは楽しそうに 中也が紡ぎ出したお題はと言えば、
「好きって10回言ってみな?」
「………………はい?////////」
さてここで問題です。(笑)
じゃあなくて。
本当に何も考えてはないままに
別の言い間違いを引き出すクイズを思いついた中也だったのか。
それとも、もしかしてもしかしたら
勢いあまってフライングしてしまい、
言わせたかったフレーズを先に言っちゃったのか。
そして、どっちにしたって、
“だとしたって…。/////////”
何と言い間違えたのかな、キスって10回言ってみてだったりして?
というか、此処は気づかない振りした方がいいのかな。
ああでもそんな、
じゃあ、好きって言わなきゃいけないの?//////////
「〜〜〜〜。////」
だってそんな、好きなんて好きなんて、そうそう言えることじゃあなくて。
茶漬けやドーナツが好きっていうのとは微妙に違うっていうか、
ちゅうやさんの前で言うってことは、やっぱりあのその、えっとえっと
あのその、まだちょっと心の準備が……、
「〜〜〜〜。//////////////////」
そんなこんなという悩ましい煩悶に
胸の内をもみくちゃにされてる敦くん。
真っ赤になったまま そろりと視線を挙げたれば、
「♪ どした?」
口角を思いっきり引き上げて、にっこにこと笑顔で待ってる中也さんだった辺り、
もしかせずともの 確信犯なご様子で。
そんな魂胆には、まだ気づかない敦くん、
「…どうしても言わなきゃダメですか?」
「おう。でなきゃあゲームが始まらねぇ。」
「うう〜〜〜〜。//////////」
困らせているところは引っかけてしまってからと同じな気がしますが、
質が全く違って 恋するお二人限定の甘さにまみれている辺り、
相変わらず、罪作りなお人なのでございます。
〜Fine〜 17.12.04
*今書いてるお話に、中也さんが出てこないかもというのに耐えかねて。
出てくる人も性格も年齢層も間柄も、
全くの全然掠めもしない、他ジャンルのお部屋で使ったネタの再利用をしてみました。
ですが、何でこうもしっくり来るのか…。
もーりんの人間性が甘いからだな、きっと。
ちなみに、敦くんの方から“好きって10回言ってみてください”というのを
最初は考えてたんですが、(吹き込んだのは太宰さん)
いくら何でも持ちかける時に気づくだろうと
天然どころじゃあない度合いで心配な案件と化しそうだったので、没となりました。

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